皆さん、こんにちは!

今回は前回に引き続き、国際秩序の変動をエントロピー増大の法則の観点から見ていきたいと思います。
前回は、国際秩序とは何か、国際秩序と覇権国家との関係、歴史的な覇権国家の変更とそれに伴う国際秩序の変更、アメリカ中心の国際秩序に対する中国の挑戦、といったことを書きました。

この記事を書いているさなかにも、米中間で領事館の閉鎖合戦が起こり、いよいよもって両国の対立が新たな局面を迎えようとしています。事態の鎮静化を祈りつつ、この記事はちょっとタイムリーだななんて思っています。

今回は、いよいよエントロピー増大の法則の観点から国際秩序の変更を考えたいと思います。

内容としては、以下のような感じです。
(1)エントロピー増大の法則とは
(2)国際秩序の変動とエントロピー増大の法則
(3)米中関係に見る、アメリカ中心の秩序のエントロピー増大

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(1)エントロピー増大の法則とは

 エントロピーは、ドイツの理論物理学者であるクラウジウスが1865年に熱力学で導入した概念です。「エネルギー」のenと「変化」を意味するギリシャ語tropyから命名されました。今日では、エントロピーの概念は物理学の分野にとどまらず、情報理論や経済学、社会科学など幅広い分野で応用されています。
 
 そんなわけで、今回は国際関係論に応用しようというわけです!!

 エントロピーという概念は、「無秩序な状態の度合い」を数値で表すもので、無秩序な状態ほどエントロピーは高く、秩序の保たれている状態ほどエントロピーは低くなります。

 エントロピー増大の法則とは、「全ての事物は、それを自然のままにしておくと、そのエントロピーは常に増大し続け、外部から故意に仕事を加えてやらない限り、そのエントロピーを減らすことはできない。」というものになります(私は物理学を専攻したことがないので厳密性に欠けているかもしれませんが大枠はこのような理解で間違いないと思います)。

 このエントロピー増大の法則ですが、分子生物学者の福岡伸一氏が書かれた国語の教科書の一文でお見受けしたのが知ったきっかけです。同氏は、この法則を生物の恒常性の維持の前提として挙げています(確か福岡伸一「生物と無生物のあいだ」だった気がします)。(非常に面白い文章なので是非ご一読ください。)

 エントロピー増大の法則とは、ざっくりいえば、維持しようとしない限り、あらゆるものはその秩序を喪失していく、ということを意味します。
 
(2)国際秩序の変動とエントロピー増大の法則 
 さあ、それではいよいよエントロピー増大の法則から国際秩序の変動を考えてみましょう(ようやく本題です)。

 先ほど書いたように、エントロピー増大の法則はまさに「秩序」に関する法則であり、それは同じ秩序である国際秩序にも適用できるはずだと考えました。
 
 前回、国際秩序は時の覇権国家を中心とした秩序であり、歴史的に変容してきたと書きました。こうした国際秩序の変動そのものも、エントロピー増大の法則を当てはめて考えることができると思います。

 つまり、「ある国際秩序も外的な力でそれを維持しようとしない限り、徐々に崩壊していく」と言えます。このことは、前回紹介した歴史的な展開からも明らかだと思います。
 
 国際秩序も、覇権国家を中心にその秩序の存続に利益を見出す諸国の努力なくしては維持することができません。例えば、第一次世界大戦後の国際秩序は、ヨーロッパにおいてはフランス、イギリスなどの戦勝国を中心とするヴェルサイユ体制でした。太平洋には、同じく戦勝国を中心としつつ、台頭しつつある日本を牽制するワシントン体制という国際秩序が存在しました。

 両秩序は、世界恐慌に伴うファシズムの台頭を受け、日本やドイツ、イタリアの挑戦を受けます。そして、その挑戦を抑え込むことができず第二次世界大戦という秩序の崩壊を招きます。第二次世界大戦終結後、崩壊したこれらの秩序は、アメリカを中心とする資本主義陣営とソ連を中心とする共産陣営による二極構造という新たな国際秩序に再編されました。

 現在私たちが生きているアメリカ中心の秩序というのは、日本を含めた先進資本主義国かつ民主主義国が中心の国際秩序であると言えます。ただし、こうした既存の秩序も、エントロピー増大の法則に照らせば不変ではありません。

(3)米中関係に見る、アメリカ中心の秩序のエントロピー増大
 今まで無数の国際秩序が崩壊してきたように、現在の国際秩序もまた、緩やかに崩壊に向かっているといえます。しかし、アメリカも当然黙ってこれを見過ごすはずがありません。これまでも、覇権国家は自身を中心とする国際秩序を維持するために様々な手段を尽くしてきました。それは国家間の同盟関係や国際秩序を維持する国際法、国際秩序を乱す国家への集団的な制裁です。
 
 こうした覇権国家が国際秩序を維持するために尽くす様々な手段こそが、エントロピー増大の法則がいうところの「外側から故意に仕事を加えてやる」ということになります。

 前回は、中国がアメリカを中心とする既存の国際秩序に挑戦していると書きました。具体的には、民主主義や自由といった西側先進諸国の意価値観を拒絶し、一帯一路戦略で独自の経済圏を形成し、南シナ海やアラビア海、西太平洋に進出しています。

 こうした中国の軍事・経済的な膨張に対してアメリカが行っている関税引上げ等の制裁行為も大局的に視れば、アメリカ中心の既存の国際秩序を、それに対する挑戦者である中国から守ろうという意思の表れと理解できます。

 70年代のキッシンジャー(ニクソン大統領の大統領補佐官、国際政治学者で専門はメッテルニヒとウィーン体制)以来のアメリカの外交では、中国も経済成長すれば韓国や台湾のような他の東アジア諸国と同様に民主化し、徐々に西側諸国を中心とする秩序に組み込まれていくだろうと考えていました。これを "engagement policy" といいます。しかし、近年アメリカは正式にこの政策の転換を示し、中国に対して強硬な外交政策をとるに至っています。

 その背景には、いままで中国を懐柔することで自国中心の秩序内に位置づけようとしていた努力が実を結ばず、現状の中国がアメリカが維持したい国際秩序の挑戦者としてみなされるようになったからと理解できます。

 このように解釈すると、アメリカが中国に対して行ってきた(そして現状行っている)諸々の政策は、一貫してアメリカを中心とする既存秩序の維持のための行動とみることができます。つまり、アメリカは自信を中心とする秩序のエントロピーの増大を抑制しようと力を尽くしてきたことになります。
 
 かつてアメリカが「世界の警察」と呼ばれ、世界中に軍隊を展開していたことも、エントロピーの増大を抑制する「外側からの力」と見なすことができます。しかし、2013年にオバマ大統領は「米国は世界の警察ではない」と宣言しました。同年、中国の習近平国家主席が「一帯一路構想」を発表したのも偶然ではないでしょう。

 トランプ大統領は経済的により少ない負担での軍事的なプレゼンスの維持を目指し、日本や韓国などの同盟国にも安全保障上の負担増を求めています。こうしたアメリカの世界的な軍事・安全保障上のプレゼンスの縮小は、アメリカという覇権国家そのものの弱体化という意味以上にアメリカが体現し維持しようとする国際秩序そのものの脆弱化を意味しているとも言えます。

 エントロピー増大の法則を国際秩序に導入することで、国際秩序の変動を、国際秩序の漸進的な崩壊とそれを維持しようとする覇権国家の行為の結果として解釈できると思います。


 以上、つらつらと小難しい文章を書きましたが、個人的には物理学の法則を国際関係論のような社会科学にも応用できる(できてなかったらごめんなさい)ということが面白いなと思いました!!

 このトピックについてはこれで終わりにしようと思います。感想、コメントがあれば送ってもらえると励みになります!最後まで読んでいただきありがとうござました! 東大生ブログランキング